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平成中村座『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』2008年7月5日(土)~13日(日)全12公演
2008年夏、東京のシアターコクーン、ドイツ、ルーマニアで公演を行った平成中村座『夏祭浪花鑑』が、「信州・まつもと大歌舞伎」として松本にやってきました。
サイトウ・キネン・フェスティバルでの経験を生かし、歌舞伎独自の市民サポーターを募集しましたところ、300余名が公演を支えるスタッフとして参加しました。
また、松本ならではの演出として市民キャストを起用。100人を超えるメンバーが、にぎやかに踊りまくった劇中の夏祭りのシーンはとてもダイナミックなものになりました。立ち回りのシーンではアルプちゃん人形、団七が追ってから逃げるエンディングでは、長野県警と書かれたパトカーが登場したのも話題を呼びました。
お練りでは、お神輿、舞台が、人力車に乗った役者さんを先導。通りを約5万人、お城にも5,000人もの市民の方々が集まってくださいました。
チケット発売日には、約800人ものお客様が芸術館に並び、8時間をかけて券売を行うことになりました。
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平成中村座『佐倉義民傳(さくらぎみんでん)』2010年7月2日(金)~8日(木)全11公演
加助騒動と呼ばれた義民伝のある松本に、千葉県佐倉で起きた義民の物語がやってきました。劇中にラップを取り入れ、貧しい農民たちの思いをのせて歌う演出、勘三郎さんの演技が観客の涙を誘いました。
農民役で約70人もの市民キャストが参加。人生経験を積んだ方々、リアル農民の方々が多数参加し、その佇まいにプロの俳優さんたちも舌を巻いたほどです。劇中に登場した、10個の俵は今井地区の方々が製作。市民サポーターも324名が登録。第一回の評判を聞きつけた歌舞伎好きの方が県外からも参加しました。
第二回は“学びの事業”が充実しました。南アルプス市の浮世絵美術館から作品をお借りした日本画家・名取春仙の役者絵展示、写真家・明緒による平成中村座写真展、大向う・樽屋壽助さんさんによるトーク、遊興亭 福し満さんによる歌舞伎落語などを松本市美術館で開催。松本市博物館では貞享義民に関する資料展示し、スタンプラリーも開催しました。
お城でのイベントを「市民ふれあい座」、そこに至る道中を「登城行列」と名付け、小雨ながらもそれぞれ5,000人、40,000人の人出を記録しました。
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『天日坊(てんにちぼう)』2012年7月12日(月)~18日(日)全9公演
それまでの座組から一転、フレッシュな配役となった『天日坊』。客席もずいぶんと若いお客さんが増えました。150年前に上演されたきりという、河竹黙阿弥の長大な原作を奇才・宮藤官九郎が上演戯曲として書き上げた作品です。
主人公の天日坊は源頼朝の落胤になりすまして東海道を下っていくのだが、途中出会う盗賊夫婦により、思いもよらぬ自分の素性を知ることになるという展開。その素性とは、木曽義仲の嫡男、義高だったという結末でしたから、『佐倉義民伝』に続き松本にも縁のある物語となりました。
演出の串田和美氏が「台本を読んだ瞬間にトランペットが聞こえてきた」ということから、印象的な音色を奏でたトランペットでしたが、そこに市民バンダ(トランぺッター)23名が圧巻の演奏を繰り広げました。
市民サポーターも347人が参加。恒例の松本城市民ふれあい座では、襲名したばかりの勘九郎さんをお祝いする内容で一層盛り上がりました。また新たに登城行列や縁日横丁の様子をUSTREAMで生中継、町でも使える松本小判の販売、学びの事業の一環ではコンテスト形式による「歌舞伎弁当」の開発・販売も行いました。
そして千穐楽のラストシーンでは、出演者にも秘密で勘三郎さんがサプライズ登場。これが、勘三郎さんが舞台に立った最期の機会になってしまいましたが、松本市民にとってはかけがえのない思い出となりました。
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『三人吉三(さんにんきちさ)』2014年7月20日(日)~25日(金)全8公演
幕末の混沌として退廃的な世相を汲み取った、河竹黙阿弥による美の世界が弾け出す作品『三人吉三』。
中村勘九郎、中村七之助、尾上松也ら若き実力者が躍動し、流麗な七五調のせりふと刹那的な美しさが溢れ出す舞台を熱演しました。演出の串田和美氏は本作品を「第二期コクーン歌舞伎の始まり」と位置づけ、宣伝ビジュアルも一新。夜の渋谷で撮影されたポートレートがチラシ・ポスターに使用され、松本市内でも鮮烈な印象を残しました。
公演の成功に欠かすことの出来ない存在となった市民サポーターには391名が参加。うち16名は市民キャストとして、クライマックスで舞台上を駆け抜ける「雪の精」として出演。舞台上からも公演を盛り上げました。
登城行列や松本城市民ふれあい座、縁日横丁、学びの事業などの恒例イベントも、回を重ねるごとに賑わいを増し、市民の盛り上がりを象徴する行事として定着しました。また、今回は新たな大歌舞伎のシンボルとなる「定紋」を公募し、松本城をかたどった、シンプルかつ印象深い定紋が最優秀賞に選ばれました。
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『四谷怪談(よつやかいだん)』2016年7月11日(月)~17日(日)全9公演
四世鶴屋南北の最高傑作を原作とする『四谷怪談』は、2006年、渋谷・コクーン歌舞伎『東海道四谷怪談』で[南番]と[北番]の二つのプログラムで上演。[北番]では、普段上演する機会の少ない「深川三角屋敷の場」で直助とお袖の悲劇を浮かび上がらせ、演出の串田和美氏は同年の読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞しました。その[北番]をベースにした新たな構成で、民谷伊右衛門に中村獅童、直助権兵衛に中村勘九郎、お袖に中村七之助、そしてお岩に中村扇雀という配役、コクーン歌舞伎を支えてきた片岡亀蔵、笹野高史、バレエダンサーである首藤康之の出演により、更なる進化を遂げた『四谷怪談』が松本の地に登場しました。
また、公演期間中に木ノ下歌舞伎「勧進帳」や地歌舞伎(東濃歌舞伎 中津川保存会)などの関連公演も実施され、様々な角度から歌舞伎という伝統芸能に親しみ、理解を深めていく試みもスタートしました。
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『切られの与三(きられのよさ)』2018年6月12日(火)~18日(月)全8公演
奇遇な出逢いを繰り返す与三郎とお富や、その因果の渦に巻き込まれ、運命に翻弄される周囲の人々、それぞれの生き様を描いた疾走感溢れる『切られの与三』。原作は、江戸世話物の人気作『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』。演出の串田和美氏が、補綴に木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)を迎え、古典と現代を融合させる全く新たな演出で生まれ変わりました。
久しぶりに再会した与三郎(中村七之助)がお富(中村梅枝)へかける「しがねえ恋の情けが仇…」の名セリフが、危うさと美しさを放つ物語の中へさらに引き込んでいき、最後まで息をのむ舞台となりました。
また、歌舞伎と同時代に生まれた日本各地の伝統芸能や、もう一つの歌舞伎とも言われる地歌舞伎から現代の歌舞伎まで、関連公演を充実させた松本にしかない歌舞伎大フェスティバルとなり、大人から子供まで幅広い世代の方に歌舞伎の魅力を届けました。
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『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』2021年6月17日(木)~22日(火)全7公演
信州・まつもと大歌舞伎の記念すべき第1回作品、『夏祭浪花鑑』が、13年ぶりに再び松本の地へ帰ってきました。浪花の市井の人々を描いた本作品は、コクーン歌舞伎として1996年、2003年、2008年に上演され、ニューヨーク、ベルリン、ルーマニアでも大成功を収めた人気演目。恩ある主人を守るべく奮闘する男伊達の心意気や、夫のために自己犠牲をいとわない女房の姿など、義理人情がふんだんに盛り込まれた物語です。
新型コロナウイルスの感染拡大により、多くのイベントが中止を余儀なくされる中、どのような時代であっても文化芸術は心にうるおいと豊かさをもたらすものだ、という強い思いのもと、270人もの市民サポーターに参加いただき、松本ならではの公演を創り上げました。
また、感染対策を施した中で、大人気の縁日横丁も開催。第1回からの実績を振り返る街なか写真展や記録紙の作成・配布も行い、まち全体で大歌舞伎を盛り上げました。
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『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』『流星(りゅうせい)』『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』2024年7月12日(金)~15日(月・祝)全6公演
古くから愛されている歌舞伎舞踊の名作『正札附根元草摺』『流星』と、上方落語をベースにした新作歌舞伎『福叶神恋噺』の2部構成で、初めて歌舞伎に触れる方にも親しみやすい演目をお楽しみいただきました。
伝統的で華やかな歌舞伎舞踊では、色鮮やかな衣装や装飾など、様式美に富んだ舞台で観客を魅了。新作歌舞伎は、上方落語「貧乏神」を題材にした世話狂言で、江戸の長屋を舞台に、登場人物たちの可笑しく愛らしいやり取りで笑いと感動をお届けしました。
さらに、2024年は「信州・まつもと大歌舞伎」開催の立役者のお一人で、松本市名誉市民でもある中村勘三郎さんの十三回忌。松本を愛してくださった勘三郎さんに敬意を表し、その功績を振り返るイベントも開催しました。
また、関連事業もさらに充実。縁日横丁はもちろん、街なかでのスタンプラリーや、歌舞伎ナビ、落語会、日本浮世絵博物館とのコラボレーションによる上演作品にまつわる浮世絵の展示など、多角度から歌舞伎の魅力をお伝えしました。